*定年おじさんの遍路雑感
癒しの風景を探して
     (16日目)

16. 真心 接待

2002.5.26第23回更新

愛媛県最後の札所三角寺にお参りしました。納経も終わり、帰りの自転車に跨っ た時、あの長い石段を大声で駆け下りてくるお坊さんが見えます。ご本尊の御 影を渡すのを忘れたので届にきた、とのこと、本当にご苦労様でございます。こ ういう真剣さが、遍路行を支えているんだなとつくずく思いました。
66番雲辺寺へは、今日も11号線を使います。雨も上がり、交通量もそれ程と思え ないのは気持ちのせいでしょうか。天気のせいでしょうか。昨日と違う11号線に見えます。377号線、8 号線と乗り継いで、山道に入り、攻略本でお薦めの片道輪行をするため、ロ−プウエ イ山麓駅に向かいます。山麓駅では風が強く、かなり寒い日になりそうです。ロ −プウエイを下りたら、山上も風が強く、今朝、霙が降ったといいます。気温は 0℃です。強風で蝋燭に火が点きません。かじかむ手でお参りし、早々に下山 しようと自転車を引いていると、山上での自転車が珍しいのか中年男性が寄っ て来て、お決まりの何処からきた、坂道は大変だろう、、、等々。寒い中、暫ら く立ち話をしました。自分は車で奥さん、おばあさんと一緒に遍路旅をしてい るとのことでした。奥さん孝行、おばあさん孝行なことです。
自転車遍路も、こうして、押して歩いていると色んな人と話すチャンスがあります。 特におじさんの自転車遍路は珍しいのか、会話は弾みます。


2002.3.23
66番札所 雲辺寺仁王門


山頂を覆う杉の大木の薄暗い道を下り、少し明るくなった道端の広場に、遠目 では猪の子供かと思われる7・8匹が、ころころと遊んでいるのが見えました。近 づいて見ると、丸々太った子犬達でした。可愛いなと思って、ブレ−キを掛け ながらその横を通り過ぎようとしたその時、突然母犬が何処からともなく飛び 出してきて、おじさん目掛けて吠え掛かります。慌てて全力でペタルを踏んだ が、何時までも追いかけて来ます。野犬のしつこさか、子犬保護のためか、、、。 お陰で帽子が強風に煽られ、後ろに吹き飛ばされてしまいました。振り返って見 たら、吹き飛んだ帽子に子犬達が群がり噛み付いていました。仕方がない、 帽子は子犬達の遊び道具にお接待しておきましょう。おじさんは、ほうほうの体 で山道を駆け下りました。
それにしても、こんな山の上に野犬が住んでいるとは、、、。そう言えば、仙遊寺 の犬塚池の話もあることだし、四国に入って、鎖につながれてない犬をよく見か けます。犬の天国に、何も知らないお遍路が、のこのこと入っていったというところでしょうか。
67番大興寺で、先程雲辺寺の頂上で立ち話した中年の男性に又会いました。彼は ポンカンを3個持ってきて「お接待です」と言って手渡してくれました。そのす ぐ後からおばあさんがやって来て、これ又「お接待です」と言って500円玉を手 渡してくれようとします。おじさんが躊躇していると、息子の中年男性が「受け 取ってやって下さい」と促します。おじさんは、有難くお受けすることにしまし た。そして本に書いてある作法通り、月日と、名前と、住所を書いて納め札を 1枚おばあさんに手渡しました。納め札を読み、おしいただいてから「愛知県か らねえ、遠くからよくおいでだ、お大師さんがさぞ喜ばれるでしょう」と言っ て財布の中へお札を入れてしまいました。おじさんは渡したお札がそのよう に扱われることに、何だか申し訳ないような気持ちになりました。
更におばあさんは「今、東京からのお遍路をお接待で車に乗せています。皆に結願し てもらいたいでなあ」と言っています。
お婆さんの、誰彼区別なく与える「真心のお接待」に、只々感謝です。こうしてお 遍路を支えてあげようというお婆さんの気持ちは、一体何処から来ているのでしょう。 ちなみに、おばあさんは83歳とのこと、「八十八番まで無事廻り切り、結願のあ かつきには、その余勢を駆って、お互い元気で長生きしましょう」と言って分か れました。
合掌。


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