*定年おじさんの遍路雑感
癒しの風景を探して
     (14日目)

14. 遍路

2002.5.24第21回更新

ビジネスホテルつよしで朝食後の熱いコ−ヒ−の接待を受け、眠気も吹っ飛んだ ところで、54番延命寺に向けて出発しました。今日の予定は、60番横峰寺を明日に 回して、54番札所から62番宝寿寺まで8ケ寺を廻る計画です。59番から61番まで の20kmの距離以外は、各札所間が3-7kmと極短く、全工程でも50kmちょっとで す。このように札所間が短いと、1日当たりのお参り出来るお寺の数が多く、得をし たような気分になります。昔使った「日当たり生産量」と言う言葉が頭を過ぎ り、自分でも笑ってしまいます。お寺参りには全く不似合いな言葉です。
54番は静かな里山にある札所で、この時期、アセビの花が満開でした。55番南光坊では、眼 光鋭い歩きお遍路に会いました。拍子木のような物を打ち鳴らして読経し、終わると風 のように寺を出ていきました。こういう短い道のりは自転車でもたもたしている より、早足の歩き遍路の方が余程早い場合があります。
56番泰山寺を打ち終わった頃から、雨がぽちぽち落ちて来ました。覚悟を決め て、完全防備の雨対策をすることにしました。
57番栄福寺を出たところで、ママチャリに乗ったおじさん遍路とすれちが いました。色あくまで黒く、風格があります。挨拶したついでに、この人ならと58番仙遊 寺へ行く道を尋ねました。聞いてしまってから、これはまずいと気が付き ましたが、聞いてしまったものは仕方がありません。このおじさん、57番札所 へは今着いたばかりなのに、次の58番への道を聞かれてしまっては迷惑千万でしょ う。ところが、ママチャリから降りたおじさんは、実に的確に仙遊寺への 田圃道、山道を教えてくれました。教えられた通り、迷わずに仙遊寺の山門に 着きました。山門は坂道の途中にあります。降り続く雨を避けるように自転車 を山門の軒下に置き、ここからは歩きで上ります。山門前の坂道を登り始めま したが、行けども行けども本堂に着きません。山門前には「後0.1K」と書いて あったはずなのに、「1km」の読み間違いだったのか、、、。こんな1本道で は間違いようもないのにおかしいな、と思いながらなおも上って行くと、やっと 本堂が見えてきました。納経も済ませ、雨に濡れる今治の町を見ながらの下山途中、急ぎ足 で登ってくる歩きお遍路に会いました。それは55番で会った眼光鋭いあの歩き お遍路です。さすが健脚です。もたもたしている自転車遍路に追いついてしま いました。挨拶をしてすれ違う時「本堂まで後どの位ですか、0.1kと書いてあ ったのに、、、。」と言っています。やっぱり読み違いではありませんでした。歩きお 遍路も、おじさん遍路も怒っています。怒りながら「お気をつけて」と言って お互い上下に分かれました。


2002.3.21
58番札所 仙遊寺仁王門


相変わらず雨は降り続いています。ぶつぶつ言いながら坂道を下り、自転車を 雨宿りさせておいた仁王門のところまで帰ってきた時、先程、栄福寺でこの58番札 所への道を教えてくれたママチャリお遍路と顔を合わせました。その人もママ チャリをここに置き、仁王門を通り抜け、山の奥の方へ入って行きます。「あ れっ、そんな奥に道があるんですか」と後ろから声を掛けると、「後100mき つい登りです」と言って悠々と木陰の道に消えていきました。仁王門の前に書 いてある「後0.1k」は正しかったのです。おじさんは、周りを眺めてみるだけ の気持ちに余裕がなく、あんな奥の方にまで気にも掛けずに仁王門 の前を通る、大きな車道をそのまま進んでしまったのです。修行がたりません。因み に、そのお遍路の胸のポケットから、幻の錦札がチラッと見えたような気がしまし た。「お遍路の達人」、そんな感じの人でした。
四国遍路の達人は、顔あくまで黒く、眼光鋭く、歩く姿勢はしっかりして逞しい 力を感じさせます。彼らなら、どんな所でも、どんな状況でも生き抜く力を持っ ているように見えます。こせこせした所が無く悠然としています。 四国遍路へ出る前は、お遍路のことを、老成した仙人のようにイメ−ジしていま したが、この考えは大外れでした。そう言えば方々の札所にあるお大師さんの 像は、どれを見ても胸は厚く逞しそうです。目に力があります。
おじさんも、無事八十八ヶ所を廻り終えたら、遍路の達人を見習い、日常生活に この逞しさを持ち込みたいものです。「病後だ、病後だ」という気弱な気 持ちは頭から吹き飛ばし、積極的な生活にしたいものです。


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