*定年おじさんの遍路雑感 癒しの風景を探して (12日目)
白衣の下にウインドブレ−カ−を着て丁度いいくらいの、ちょっと肌寒い朝です。 50km先の大宝寺に向けて自転車を走らせます。白子町は、旧家の並ぶ町場 もあれば、谷間の町もありの、色々な顔を持つ面積の大きな町でした。白子の町並みを 外れて暫らくすると「谷間の町」と書かれた看板が出てきます。確かに深く切 れ込んだ谷川の両岸の山肌に、雛壇のように綺麗な白壁の家屋や蔵が並んでい ます。朝日を受けた白壁が映えて見えます。山間と言っても、信州の山深さは感 じません。日の光が降り注ぐ、明るい谷間の町です。 2002.3.19 内子町の枝垂れ桜満開 更に谷川の道を上って行くと、向うから自転車に乗った女子中学生がやって来ま した。すれ違いざま、その中学生が突然、「おはよう御座います」と言って走り去 って行きました。驚いたおじさんは「おはよう御座います」のお返しが遅れて しまいました。 おじさんの子供の頃、近所の大人達に挨拶しなさと言われて育ち、子供にも同じ ように言って聞かせたのは憶えています。しかし、今時は、隣の奥さんの顔も定 かでない生活が続き、ついぞ知らない子供から「おはよう御座います」など言 われたこともないし、言ったこともありません。「挨拶は人間関係の基本」という ことくらい誰でも知っていますが、こうして小中学生の挨拶 に実際出っくわして、改めて、今の生活態度の不自然さに気が付く愚かさに恥じ入 ります。 内子町を通り抜け、小田町に入ってもなお登り坂は続きます。谷川に掛かる橋を 2度ばかり渡り、カ−ブの坂道でおじさんのもたもたした走りに業を煮やした のか、男子学生が追い抜いて行きました。追い抜きざま「おはよう御座いま す」と挨拶するではありませんか。女の子のみならず、腕白盛りの男の子まで も「おはよう御座います」とは嬉しいねと思いながら、その学生の後ろを走っ て行くと、その学生はなんと「小田高校」の校門へ消えていきました。 知らないお遍路に「おはよう御座います」の挨拶する小学生から高校生まで、、、。 一体どんな躾がなされているのでしょう。お爺さん、おばあさん、両親が白衣 のお遍路にする挨拶を、赤ん坊の時から見て育つ環境があってのことでしょ う。この谷間の町にも、お大師さんの影響は確実に残っていました。心が洗われる おもいです。 44番の納経所はがらんとしていて静です。おじさんが入っていった時、寺号を 書く女の人が二人向き合って、なにやら真剣に話しています。掛け軸と納経帳 を出し「御願いします」と言っても話しは止みません。話しながら器用に華押を 書き、寺印を押していきます。女性同士の、世代間に跨るのっぴきならない話のよ うです。この問題は、お大師さんの時代から今に至るまで、何処でも、何時でも ずっと続いている問題かも知れません。心なしか、寺印も華押も右肩上がりのようで す。1箇所くらいこういうのがあってもいいか、、、。 2002.3.19 44番札所 太宝寺 仁王門
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