*定年おじさんの遍路雑感
癒しの風景を探して
     (11日目)

11. お爺さん

2002.5.21第18回更新

42番仏木寺で、和尚さんらしい和尚さんに出会いました。声は大きく風格があり ます。納経所へ入るといきなり、「掛け軸の裏に、印肉が付着しない方法を教え よう」と言い出しました。最初、何か叱られているのかと思いましたが、どうも おじさんの差し出した掛け軸の巻き方が良くないらしいのです。
和尚さんは、掛け軸を受け取ると一旦巻き戻し、徐に軸の両端から巻き始めまし た。そして、巻き合わさる部分が、丁度、和尚さんが今から「42番仏木寺」と寺印を押そ うとしている場所に来るように巻き上げました。こうしておけば、何処のお寺で も寺印を押してもらう時、一から巻き戻すことなく、その部分をちょっと開く だけで華押、寺印を貰うことが出来ます。掛け軸の裏側が擦れることなく、印 肉も着きません。此処まで説明しておいて、今度は、両方から巻いてきた部分を 手で形をつけるようにしっか押さえつけました。そして一言、「形をつけるには 最初が肝心じゃ、しっかり押さえることだ。奥さんにも最初しっかり形を教え たかな、、、しかし、こればっかりはお互い難しいわなワッハッハッハ、、、、。 」この時、初めて厳しい顔がほころびました。
言われた通りやってみると、納経所での掛け軸の取り扱いが非常に手早く、スマ− トになりました。ちょっとした工夫ですが、お爺さんの知恵は味があります。昔 はこういう頑固爺さんがいて、嫌われながらも若い衆に何かと知恵を授けていた ような気がします。久し振りにそんな頑固爺さんに会いました。おじさんも、と っくに頑固爺さんの年齢ですが、なかなかこうはいきません。


2002.3.18
42番札所 仏木寺 仁王門


43番明石寺にお参りし、すぐ前の常楽苑レストランで昼食。ガイドブックに書い てあった大師うどん550円也を食べました。「・・・」感想なしです。
午後は内子の宿まで40kmです。ここまで来ればそれ程慌てる距離ではありま せん。宇和町を出て、じりじりと鳥坂トンネルまで上り詰め、1117mの長いトン ネルを抜けると、下りの大坂道が待っています。風圧に耐える卵型の姿勢で一気に 大州の町までのダイビングとなります。天気は良いのに風が強く、黄砂のため か遠くの風景がぼやけて見えます。こんなに凄い黄砂は初めての経験です。口 の中がじゃりじゃりします。上りの時はそれ程気に掛からなかったが、下り きって景色を見る余裕が出ると、この凄さは気になります。
一旦休憩、とばかりに大州の町で喫茶店に入りました。ドアを開けると、中は 薄暗く、一瞬やっていないのかと思いましたが、奥からおやじさんが「いらっ しゃい」と顔を出しました。目が慣れてくると、店内は落ち着いた雰囲気に作ら れていて、静にクラシック音楽が流れています。頼んでもいないのにおやじさんは、 「黄砂で目や口がざらざらでしょう。手洗いはあちらです」と案内してくれま した。さすがベテランマスタ−、お客の気持ちを分ってくれます。 手や顔を洗いさっぱりしたところで、カウンタ-に座り、ト−ストとコ−ヒ−を 注文すると、おやじさんが「ト−ストは半分にしましょうか」と、、、。確かに 時間的には普通サイズでは多すぎる。半人分のト−ストができるなら有難いこ とです。
ハ−フサイズのト−ストとは面白いメニュがあるものです。落ち着いた内装を 誉めると、コ−ヒ−を入れながらおやじさんは、ぽつりぽつりと話し出しまし た。自分が65歳だから、年齢相応に店内は落ち着いた雰囲気にしたいと思って内装してもらった こと、年金を貰いながらの店番であること、町のお年よりの憩の場所になれば と考えたこと、少量で安い料金のメニュも考えたこと等、、。
65歳のおやじさんと63歳のおじさんは、二人きりの店内で、のんびりと取りとめ のない話をして小一時間を過ごしました。さりげない大人の気遣いと大人の知 恵が嬉しい喫茶店での休憩でした。白子の宿へはもう一走りです。


トップへ             次へ