*定年おじさんの遍路雑感 癒しの風景を探して (9日目)
今日は38番金剛福寺を打ち、昨夜予約しておいた竜串の「旅館たがみ」まで 90K以上の工程です。民宿を出るとき見た新聞の天気予報は、午前中曇り。 雨にならないだけでも感謝しなければ、、。おじさんの気持ちも天候に左右 され、何となく湿りがちです。昨夜、いい夢を見させてもらったというのに、「曇 り」の予報ひとつで「湿りがち」になるおじさんとは、何という「お天気屋」 なんでしょう。 気持ちのせいか、雲が垂れ込めているせいか、海岸風景も海の色も、昨日までの 南国の輝きを失った平凡な田舎風景に見えます。 4時間走ってようやく中村市に入りました。11時、ちょっと早いが昼食にと喫 茶店で「モ−ニング?」を頼みました。子連れの主婦や、工事のおじさん、サ ラリ−マン風のお兄さんと、大勢の人が「モ−ニング?」を食べています。ゆっ くりコ−ヒ−を飲み、さて足摺へのル−トを聞こうとテ−ブルに地図を広げた ところ、店にいる全員が集まって来て、あそこだここだと親切に教えてくれます が収拾がつきません。結局、それらを子連れの主婦が大声で1つのル−トに纏め 上げ、再度分り易く教えてくれました。高知の人は、眼光鋭く、色浅黒く、一見 怖そうに見えましたが陽気で明るく親切なのがよく分りました。皆さん有難う 御座いました。 そう言えば「国民宿舎土佐」での夕食時、お客同士の雑談の中で、一人のお兄さ んが、四国4県の県民性を面白い例え話で教えてくれたのを思い出しました。 それは、「もしも1万円拾ったら」と言う話です。1万円拾ったらそのまま貯金す る県、2倍にして貯める県、1万円持って買い物に行く県、最後に2倍にして 使い果たす県が有る、ここ高知県人は2倍にして使い果たすのだと言っていま した。ちなみに、話しているお兄さんは高知県人とのことでした。四国滞在期間 はたったの8日間ですが、何となく分るような気がして可笑しくなってきました。 四万十大橋を渡りながら下を見ると、曇り空にも関わらず川底の石ころまで透き 通って見えるのには大感激です。おじさんの家の近くでは、こんな色の川底を見 たことがありません。 伊豆田トンネルを抜けて2・30分走ると、再び海岸道路に出ます。相変わらずの曇 り空です。何となく冴えない色の海を見ながら、昨日買ったポンカンをかじりな がら走ります。 以布利港を過ぎ足摺スカイライン入り口まで来て、おじさんは自転車を止めて 考えました。このままスカイラインに入るか、西回りコ−スを取るかと、、、。 中村の喫茶店で道を尋ねた時、周りの皆にダメだダメだと非難されながら、一 人だけこのスカイライン経由を薦めてくれる人がいました。その人の言い分は、 「アップダウンは激しいが視界を遮るものはなにもなく、気持ちよく走れるぞ」と 言うものでした。迷った時は「攻略本」、と取り出して調べていたら、民家が 見えないこの道を、向こうから娘さんが一人歩いて来ます。土地の娘さんなら 土地勘もあるでしょう。「スカイラインコ−スと西回りコ−スとどちらがアッ プダウンが激しいでしょうか」尋ねてみました。上りっぱなしでも、、高低差の少 ない方を選びたいと思っての質問でしたが、娘さんはおじさんの顔と自転車を 見て、暫らくもじもじしてから、小さな声で「どちらも凄いです。私、お役に 立てずにすみません」とピョコンと頭を下げて急ぎ足で行ってしまいました。 「人を見て道を聞け」の学習が生きていません。疲れてくると依頼心が強くな り、走るコ−スを他人に決めてもらおうとしていました。 凄い坂道を14・5Kmも自転車で走る事のない娘さんに聞くなんて、、、。多分、 この娘さん「どちらの道が、、、」と聞かれても、目の前の自転車と貧弱なおじさんの顔を 見たら、一瞬頭の中が混乱し、答えようがなかったのでしょう。おじさんは大反 省です。 喫茶店でのご推薦と「攻略本」情報をもとにして、西回りコ−スに決めました。 走り出してみると娘さんの行った「凄いです」が実感できました。道幅は狭く 激しい山坂となり、偶に通る自動車とのすれ違いに要注意です。 汗だくになりながら上っていくと、突然断崖の上に出ました。金剛福寺にはまだ まだの筈なのに、、、。白波渦巻く自殺の名所と言われる断崖は、お寺の下しか ないと思い込んでいたおじさんは、不意打ちを喰らわされたように息を呑みまし た。それ程強烈な印象を与える断崖の風景です。 どうしたタイミングの妙か、おじさんが自転車を降り1歩海に近づいた時、垂 れこめた雲の間から太陽が顔を出し、一瞬海の色は重い紺色から透きとおった 青色に、断崖の壁は黒ずんだ褐色から明るい赤銅色に輝きました。 お大師さんの時代、必死で上って来た道なき道が突然なくなり、深く垂直に海 に落ちていく断崖の風景が目の前に現れたとしたら、、、しかも雲間から光、 凪から突風へと幾つもの偶然が重なって起こったとしら、、、人は自然の力に おののき、そこに「自然の霊」を感じ取ったかも知れません。 2002.3.16 断崖の風景 現代に生活するおじさんではありますが、今こうして突然太陽の光を受けて輝 く「深い海と断崖の風景」をみて、自然の大きな力に、何かを感じたような気 がしました。そしてそれは信仰心の薄いおじさんにも、自然の力に啓示を受け、 これを畏怖する日本人のDNAを思い起こさせ、宗教の入り口部分を垣間見せてくれたの かも知れません。それ程感動的な「断崖の風景」ではありました。 2002.3.16 38番札所金剛福寺 遠景
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