*定年おじさんの遍路雑感
癒しの風景を探して
     (3日目)

3. 山里

2002.5.2 第10回更新

焼山寺山門に到着したのは11:08、さくら旅館を出てから4時間18分掛かっ たことになります。このコ−スは自転車遍路専用サイト「走れ!快速へんろ」 の「攻略本」の中で、「初心者用おすすめコ−ス」として紹介されているもの です。11番藤井寺から石井町まで192号線を走り、石井の交差点を右折して 石井神山線に入ります。新童学寺トンネルを抜けて鮎喰川の右岸を遡ります。 神山町で梨の木峠を越えて来た線と合流し、更に暫らく川沿いに走り、いよいよ 遍路ころがしの急坂登りとなります。他に歩き遍路のための柳水庵経由の登山 道もあるようですが、いずれのル−トよりも距離は1番長く、高低差は1番少ない正に 自転車遍路用の道路です。


2002.3.10
12番札所 焼山寺仁王門


考えてみれば、この鮎喰川沿いのコ−スは11番から12番に向かう道筋の1部だし 、逆打ちには以前から使われていたはずです。それを11番から石井町・新童 学寺トンネルと繋ぎ、あえて自転車遍路用に11-12番の順打ちコ−スとして 「おすすめコ−ス」に入れたサイト編集者の「発想の転換」に感謝状でも進呈し たい気持ちになりました。と言いますのも、走ってみて初めて確認できたこと ですが、この川沿いの風景の素晴らしさは絶品です。 昔、「美味しさを2度味わう」というお菓子の宣伝文句が有りましたが、正にこの道の往 復はそれに当ります。
童学寺トンネルを抜けて川沿い道路に入ると車の通りは疎らとなり、ゆっくり 景色を眺めながらの走りとなります。昨日の脚の後遺症を心配して、無意識に早 め早めのギヤ−チェンジをしているせいか、緩やかな上り道路もさほど気になり ません。
それよりもなによりも美しい風景、、、。朝のすがすがしい空気と鴬の声、 谷川の清流、道路沿いの少し開けた斜面に離れて立つ家々の間を走っ ていると、これぞ「ザ・山里の風景」と言いたくなります。遠くに見える瓦屋 根の日本家屋は、周りの山に溶け込んで人の手が作ったものとはいえ、自然の中 の自然物のように調和しています。 日本建築の技術が最後まで残るのは、この四国の山里かも知れない、とか思いな がら走りました.
これから始まる焼山寺打ちの前に、この綺麗な山里の風景から本当の元気を貰っ た気がします。サプリメントで作る見せかけの元気ではなく、日本人の心の 故郷に帰ってリフレッシュして来たような、体の奥底から湧き出る元気のような 気がします。
鍋岩に到着し、さて自転車で何処まで登ろうかと考えながら木製案内板を見て いたら、売店からおばさんが出てきて、坂道の大変さを話し、自転車はここへ 置いていけと勧めてくれます。さあてここは考え所です。 おじさんは澄んだ空気と、綺麗な風景に元気を貰った余勢を駆って、杖杉庵ま では自転車で行ってみることにしました。
しかし自転車を漕げたのはほんの4・50mだけで後はとても乗っては登れません。 洗濯ロ−プを荷台に縛り、その端を左肩に掛けリヤカ−を引く要領で引っ張った りハンドルを押したり、いやはや難行苦行となってしまいました。おばさんの 言うことに従えばよかったか、、、。それでも何とか杖杉庵までは到着し、 ここからは最後の詰めで1時間の歩きとなります。


2002.3.10
杖杉庵 お大師さんと衛門三郎像


観光バスの窓からは「どうしてこんな所まで自転車で来たの」とか、「頑張れ よ」とか、色々な想いの顔が覗きます。 おじさんは使い切った元気を、再度奮い立たせて歩きはじめまた。お大師さん は大変なことを思いつかれたものだ、、、とか、この大変な遍路が何故に 1200年も続いているのだろうか、、、とか苦し紛れに取りとめも無い思い を並べて登り続けました。


2002.3.10
遍路道脇のお地蔵さん


石の階段を登り、両側に大きな杉木立の並ぶ仁王門を潜り、山上の広い境内に 立った時、やっと遍路ころがしを乗り越えた実感が湧いてきました。 境内に響く団体さんの読経の声に合わせて、写経してきた般若心経を目で追いな がら声を出してみましたが上手くいきません。それでも本堂、大師堂と団体 さんについて廻り、ぎこちないながらもお参りを済ませました。お大師さん、 お参りの気持ちだけは受け取って下さい。
売店でお茶を買い昼食にしようと、今朝宿を出る時おかみさんが準備してくれ たおにぎりを開いたら、なんとその包み紙がお客へ(高橋様へと書いた)宛て た手紙になっていました。商売とは言え、遍路道中の無事を思う気持ちが伝わっ てきます。素朴な手書き文字を読みながらおにぎりをほうばると、正に日本の お袋の味を感じ、今に残るお大師さんの影響力を見たような気がしました。
13番を打ち終え、3時には今日の宿、名西旅館に到着しました。出迎えてくれた お婆さんは、永年遍路を世話してきた風格を漂わせ、「今からなら14.15.16番とお 参りし5時までには17番に入れますよ」と自信を持った口ぶりで教えてくれまし た。勧められるままに、鮎喰川を渡り田園地帯を走り住宅地を抜け朱塗りの井戸 寺の仁王門の前に立ったのは、お婆さんの教えてくれた丁度5時ちょっと前でし た。 旅館に帰っておばあさんにこの話をしたら「永年この商売をしてますから、、 、。」とさらりとおっしゃる。こうして昔からお遍路達は、おばあさんの正しい 情報を頼りに歩いているんだなと思い感謝。 明日は18番恩山寺を目指して、、、。


2002.3.10
15番国分寺 山門前
納経終わって 15:55




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